三連動地震想定の防災訓練に病院船が登場?

先月末、大規模な津波防災訓練が実施された。言うまでもなく東日本大震災・津波を受けてのもので、訓練の想定も実際の被害を参考にしている。

この訓練に「病院船」が参加したという。

沖合の病院船で治療も 西日本9府県が津波訓練

 南海地震による津波被害を想定した広域防災訓練が30日、徳島県小松島市であった。津波で海に流された負傷者を救助し、3キロ沖合で待機する病院船の船上で治療する訓練もあった。7府県が加わる関西広域連合も参加した。

 訓練は、近畿2府4県と福井、三重、徳島の計9府県が1995年から毎年実施。今回は、和歌山県潮岬沖でマグニチュード8.6の南海地震が発生し、6メートルの津波が襲ったとの想定で行われた。自治体の訓練では初めて、手術室や集中治療室を備えた海上自衛隊の補給艦「おうみ」(基準排水量1万3500トン)が病院船として参加した。

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津波で、海上に流された負傷者を救助する訓練

といっても、専用病院船ではない。専用病院船はまだ日本には存在しないのだ。
この記事で「病院船」とされているのは病院機能を持つ海自補給艦「おうみ」である。海自では阪神大震災などを受けて大型艦の医療設備を強化、災害派遣時には一般の被災者・負傷者受入を想定している。

関連エントリ:各国の病院船、日本の病院船機能をもつ自衛艦

この訓練では海自の「おうみ」だけでなく、海保のヘリ搭載型巡視船「せっつ」も同様の洋上救護所となった。同船は阪神大震災で被災損傷しつつも、麻痺した五管本部・神戸海保に代わる臨時拠点として活躍している「実戦経験者」である。

3連動甚大被害想定 小松島で9府県合同訓練、広域連合が物資支援

 徳島、福井、三重3県と近畿6府県による東海・東南海・南海3連動地震を想定した近畿府県合同防災訓練が30日、小松島市の徳島小松島港赤石埠頭(ふとう)を主会場に行われた。各府県消防隊や自衛隊、海上保安庁、医療団体など240機関から約3千人が参加し、本番さながらに取り組んだ。

 午前9時ごろ、和歌山県の潮岬南沖でマグニチュード8・6の地震が発生し、震度6強を観測、5メートルを超える津波が押し寄せ県内沿岸部の道路や建物が大きな被害を受けたとの想定で行われた。

 赤石埠頭の沖約3キロで海上自衛隊補給艦「おうみ」と海上保安庁巡視船「せっつ」の2隻に洋上救護所を開設。9府県の災害派遣医療チーム(DMAT)約110人が乗り込み、負傷者の応急処置に当たった。

 20チームが乗船したおうみには、海自や各府県のヘリ6機が海上を漂流していた負傷者らを次々と搬送する訓練を実施。医師や看護師は貨物室に設けた救護所で、治療の優先順位を判断する「トリアージ」を行った。負傷者を軽傷、中傷、重傷に分け、重傷者は緊急手術や他府県の救急病院への搬送手続きをした。

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飛行甲板でヘリ発着訓練=小松島市

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29日、徳島県小松島市沖で東海、東南海、南海の3連動地震発生に備え、関係機関が連携し、艦船へのヘリコプター発着訓練が行われた。写真は海上保安庁巡視船「せっつ」に着船する兵庫県の消防防災ヘリ「ひょうご」 【時事通信社】


海保には病院船に近い存在として災害対応型巡視船の「いず」「みうら」が存在するが、それ以外の大型巡視船(PLH/PL)も本格的な医療設備を持つ。これは長期行動(航海)において乗員の健康維持を行うとともに、海難救助での要救助者や洋上救急のでの急患などに対応するための設備で、当然のことながら災害救助にも活用できる。

長期行動の場合、巡視船に民間から医師が「船医」として乗り込むが、洋上救急の場合、ドクターヘリのように医師と看護士が海保ヘリで駆けつける。そのため、登録された病院の医師・看護士と定期的に訓練を行うほか、ドクターヘリそのものが巡視船まで飛行し、離着船の訓練も行う。

それいけ!ドクターヘリ 潮を洗い流して怒濤の搬送

こうした連携が、地震や津波の対策にもつながっている。

関連エントリ:海保・空自・赤十字の連携で中国人船員を救う、国境無き「洋上救急」

東日本大震災・津波で仙台空港が被災し使えなくなったため、山形空港や花巻空港、霞目駐屯地が自衛隊、米軍、海保、防災、警察、ドクターヘリ、各種民間機の拠点として使われた。今回の訓練では、それと同様の想定で被災地よりはなれた設定の神戸空港を拠点として想定している。

神戸空港で地震訓練 ヘリで搬送 応急手当…

 神戸空港では、地震によって県外で大勢のけが人が出た場合を想定し、ヘリで患者を搬送し応急手当てを行う訓練が行われました。

 訓練は南海地震が起きて、徳島県で大勢のけが人が出て神戸市に応援が要請されたという想定で行われました。

 ケガ人をまずヘリで神戸空港まで運び、その場で待ち構えた医師らが応急手当を行った後、市内の病院に搬送していきます。

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専用の病院船が建造されれば、被災地周辺に無傷の空港が存在しなくともこうした応急処置と搬送の拠点を洋上に置くことが出来る。実際、海上保安庁の「病院船」である「いず」が、東日本大震災で搬送拠点としての役割を担った。

時事ドットコム:動画特集 海上保安庁、原発退避区域内の患者を緊急搬送

2011年3月23日
 災害派遣医療チームからの要請を受けた海上保安庁は20日、福島第1原発の屋内退避区域内にある南相馬市立病院の患者を同庁ヘリコプターで新潟県の新潟市民病院に搬送した。【海上保安庁提供】


このときは青森から派遣された八戸DMATと陸自、海保の連携作戦だった。

東北関東大震災その15  ~八戸DMAT 海保ヘリで広域搬送 その1~ - 青森県ドクターヘリ スタッフブログ


東北関東大震災その16  ~八戸DMAT 海保ヘリで広域搬送 その2~




スーパーピューマは他の機種と違い燃料の補給なしで往復が可能だったようだ。この航続性能はAS332やEC225が海保で重用される理由のひとつだ。

関連エントリ:日本で好調なユーロコプターを代表する機体?

AS332は「しきしま」搭載機SST用として導入されたがその後の阪神大震災において救難救援活動にも活躍、羽田基地への追加導入へと繋がった。今回の震災では整備中のしきしま搭載機の1機が浸水、使用不能となったが後継機であるEC225が活躍し改「しきしま」級搭載機及び代替機としてまたも追加導入される。

AS332が阪神大震災を受けて追加導入された際は、平行して海保における「病院船」である災害対応型巡視船が建造された。


今回も東日本大震災を受けて病院船建造の政治的機運が高まっている。あれだけ大規模な災害が発生し、現地の病院・医療体制の壊滅を目の当たりにすれば当然の動きだといえる。

政府、災害時に「病院船」検討。(2011/11/07 日本経済新聞)

 政府は大規模災害に対応するため、医療施設を備えた「病院船」(災害時多目的船)の検討を始める。今月にも有識者や関係省庁からなる検討会議の初会合を開き、来年3月までに結論を出す。東日本大震災では津波被害や停電、断水で病院の業務に支障を来した。患者輸送も困難だったことから被災地に近い沖合に派遣できる病院船の必要性があると判断した。
 病院船はヘリポートを完備し、患者をヘリで輸送することを想定。数百の病床や複数の手術室などを設ける。電力や水、食糧など一定期間、賄えるようにする。計画段階では内閣府が担当し、運用は海上保安庁か防衛省に移管する見通しだ。
 病院船の製造には数百億円かかるとみられるほか、平時の活用方法や維持費も課題だ。1995年の阪神大震災の際にも病院船の導入が浮上したが、実現しなかった。平時に海外での災害対応など国際協力に役立てる案もある。



だが、正直言って自分は今回の政治的な動きに全く期待していない。

「病院船」導入へ調査費、災害時医療マヒに対応

 政府は21日、大規模災害時に負傷者を収容できる病院機能などを持つ「災害時多目的船」の導入に向けた調査を行うため、2011年度第3次補正予算案に調査費3000万円を計上した。

 陸上の医療体制がマヒした東日本大震災を受け、導入に向けた課題などを検討する。国内には現在、官民ともに「病院船」はない。

この記事は無知なのか、敢えて「専用病院船」に絞った言い方にしているのかは判然としないが、冒頭の記事や関連エントリで説明している通り、病院船機能を持つフネは官民ともに存在している。

 民間では平時からの過疎地・離島医療に対応するための診療船「済生丸」が存在しており、阪神大震災でも活躍した。

関連エントリ:日本にもある!専用「病院船」=診療船と救急船

 官の「病院船」が専用船にならなかったのは運用上の問題と政治的な駆け引きの結果だ。

関連エントリ:阪神大震災が海上保安庁に与えた影響、「病院船」騒動の顛末

 そして運用上の問題は今回の「検討」でも当然、出てきている。

「災害時多目的船」の導入検討 行政、病院機能を沖合に

 内閣府は25日までに、津波などの大規模災害が起きた際、現場の沖合などに派遣して政府の現地対策本部や医療の拠点とする「災害時多目的船」の導入について検討することを決めた。来月にも関係省庁や海運会社が参加する会合を設置する。

 内閣府はヘリコプターの離着陸ができる大型船を想定。津波で沿岸部が広く被災し自治体や病院の機能が失われた場合でも一定期間は電力や水を自力で賄えるため、緊急対応しやすいとの期待がある。

 ただ、調達には多額の費用が必要で、民間の船を改造するか、新たに建造するかも課題。平常時の管理をどうするかなど運用上のハードルも多い。



今回の震災・津波においては通常想定されていた災害時医療と全く異なる状況であったことが派遣されたD-MATを初めとした医療関係者から報告されている。一方で、今回病院船構想をぶち上げている議員の中には、既存の病院船、先に挙げた海保の災害対応型巡視船「いず」が、東日本大震災では全く役に立たず、「税金の無駄遣い」だったと非難している者もいる。

必要なのは専用「病院船」という箱なのではない。それも含めた災害時医療のあり方そのものが問われている。そのことに気付かない限り、今回の「病院船騒動」も過去と同じ末路をたどることになるだろう。

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tag : 海上保安庁 巡視船 「いず」 東日本大震災 福島第一原発事故 AS332 EC225 S-76 212 病院船

2011-11-14 : 東日本大震災 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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