海上保安庁がエクスプローラーAUVを導入!・・・一方、国産AUVは

昨年末に海保が導入するAUVが明らかにされた。

関連エントリ:海上保安庁に「潜水艇」が復活か・・・海洋情報部のAUV計画

ISEのエクスプローラーである。

Japan-Coast-Guard-Orders-Explorer-AUV-from-ISE.jpg

JAPAN COAST GUARD ORDERS ISE EXPLORER AUV

International Submarine Engineering Ltd. is pleased to announce that the Japan Coast Guard (JCG) has placed an order for an Explorer autonomous underwater vehicle (AUV). The vehicle will be used for marine search and recovery as well as survey operations.
The JCG Explorer will also be supplied with a light-weight self-articulating ramp based launch and recovery system which will be installed on one of their ships. This will enable the Coast Guard to launch and recover their AUV in an elevated Sea State. The launch and recovery ramp system is built by Hawboldt Industries of Chester, Nova Scotia.

2隻発注されたとのことだ。またエクスプローラーだけでなく発進回収用のシステムをカナダのHawboldt Industries社が製造し海保の測量船に装備するという。これにより荒れた海での発進改修も可能となる。同社はカナダ沿岸警備隊にも多数の機材を納入している。

Hawboldt Industries

hawboldt_ccg.jpg


23年度第4次補正予算で、海洋調査能力の向上として「拓洋」の延命工事と「昭洋」の搭載機器更新が前倒し実施されることになった。これに続く24年度予算によって「拓洋」にはAUVのための設備も搭載されるという。

平成24年度海上保安庁関係予算決定概要

○ 自律型潜水調査機器(AUV)の増強整備 528(0)百万円

海底地形等の精密なデータを取得することができる自律型潜水調査機器(AUV)の増強に要する経費。

○ AUV搭載のための大型測量船の改修 1,372(0)百万円

海洋調査の主力である大型測量船「拓洋」について、新たに搭載されるAUVのための設備改修に要する経費。

船齢から言えば「昭洋」の運用実績に基づき現「拓洋」を新型船で更新したいところだろうが、延命工事をしたうえにAUVを搭載せざるを得ないところに海保が引き続き厳しい予算状況に置かれていることを示している。



このAUV導入計画は精密な海底地形の調査を実施することによって、日本の領海・EEZの権益を確保することが目的だ。

海洋権益を保全するための海洋調査等の推進(海洋調査能力の向上)

HL_AUV.jpg


いまさら、海洋権益確保の重要性を説くまでもないだろう。むしろこの計画が行政事業レビューで一旦、予算圧縮されていたことのほうが不思議だといえる。

さてこのエクスプローラー、あまり聞きなれない方もいるだろうが、この業界(?)では有名で結構なベストセラーのようだ。有名たらしめているのが、低コスト運用で柔軟性が高く長期の自律行動が可能という点だという。

ISE develops & manufactures Autonomous Underwater Vehicles (AUVs)

活動範囲は300~6000メートルの間で調整でき、船体システムや搭載センサーを目的に応じてカスタマイズすることも可能。機材は曝露部のほか、対圧区画内の19インチラックにも電子機器とともに導入可能。ウェットペイロードにはサイドスキャンソナー、マルチビーム測深器、サブボトムプロファイラが装備されており、全て同時操作可能である。

当然、実績もある。代表的なオペレータとしてはフランス海洋開発研究所IFREMER(2隻)やアメリカ国家海洋大気局NOAAのプロジェクトに参加しているミシシッピ大学などがある。また、カナダ天然資源省も2隻導入している。海保の目的からいえば一番近い運用かもしれない。

EXPLORER Autonomous Underwater Vehicle

Explorer AUVs are owned and operated by the French research agency Ifremer (2 vehicles), the University of Southern Mississippi as part of a NOAA project, Memorial University of Newfoundland, the University of Bremen and Natural Resources Canada (2 vehicles).

Nasa.jpg
ミシシッピ大NIUSTによってNASAのLiberty Starに搭載されたエクスプローラー級AUV"Eagle Ray"

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IFREMERで運用されるエクスプローラーAUV

そして今年のデータシートには新たなオペレーターが追加されていた。

ISE Explorer Datasheet

…and Fukada Salvage and Marine Works.


通称「深サル」すなわち深田サルベージ建設である。同社は今や世界最大級の起重機船を使ったケーソン設置や橋梁建設をはじめとするマリコン事業で名が知られているが、国内の民間企業では珍しい有人潜水艇を保有した社名通りのサルベージ会社である。海保とのつながりでいえば東シナ海工作船事件において「沈没」した工作船の引き揚げに成功したことでも有名だ。

第十管区海上保安本部 管内概要 九州南西海域不審船事案

032.jpg


深田サルベージ
syashin.jpg 


実は同社は海保に先立って昨年前半に、エクスプローラーを2隻ISEに発注していた。

FUKADA SALVAGE ORDERS ISE EXPLORER AUV

ISE Ltd. is pleased to announce that Fukada Salvage and Marine Works Co. Ltd. has placed an order for an Explorer autonomous underwater vehicle (AUV). The vehicle will be used for commercial survey operations and is equipped with an EdgeTech 2200M sidescan sonar and sub-bottom profiler, an R2Sonics 2022 multibeam echosounder and a SeaBird FastCAT conductivity, temperature and depth sensor.

The Fukada Explorer will also be supplied with a light-weight self-articulating ramp based launch and recovery system which will be installed on one of their survey ships, the Shinkai Maru. This will enable Fukada Salvage to launch and recover their AUV up to Sea State 4.


データシートに加えられたのはこの2隻だろう。

そして、同社は今回の海保導入にもISEと組んで参加している。運用やメンテ支援を行うという。

ISE has partnered with Fukada Salvage and Marine Works Co. Ltd. of Osaka for the provision of local operations and maintenance support for the JCG Explorer AUV. ISE and Fukada Salvage have a long relationship; earlier in 2011 Fukada purchased an Explorer AUV for their own survey operations.

深サルがエクスプローラーを導入したのは自社の事業のためだけではなく、こうした運用委託・支援の受注も見込んでのことだろう。

工作船引き上げで活躍した有人潜水艇「はくよう」や今回のエクスプローラーを実際に運用している(することになる)のは、子会社の新日本海事だ。

エクスプローラーの発進改修装置も同社の作業母船に装備される。ひょっとしたら海保も必要時のみ同船を傭船するという可能性もある。

新海丸 多目的作業船 潜水艇はくよう作業母船

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同社は自社の事業でAUVを運用したり、運用委託を受けるだけでなく、ISEの代理店でもある。

新日本海事 業務案内

○システムエンジニアリング部

 海洋、並びに潜水機器の特別仕様に基ずく総合システムの設計、製造及び販売を行う。 カナダI.S.E社日本代理店。海洋研究開発機構へROVハイパードルフィンを納入致しました。

どうやらJAMSTECのROVハイパードルフィンもISE系だったようだ。

 こうしてみていくと、低コストで高性能、かつ国内サポートも問題ないAUVを海保は海外から導入するようにも見える。

だが、ここで一つの疑問がわいてくる。



国産のAUVはどこに行ってしまったのだろう、と。

日本にはこうした任務に向いたAUVがないのであろうか。
いや、むしろ深海探査は得意分野だといわれてきたはずだ。

国内で有名なAUVもいくつか存在した。


三菱重工が開発したAUV-EX1はJAMSTECの「うらしま」としてよく知られている。

自律型無人潜水機試験機(AUV-EX1)を開発

2000年1月21日発行 神船第609号

 三菱重工業は,海洋科学技術センタ-殿御発注の自律型無人潜水機の試験機(AUV-EX1)を建造しており,この度,機体の組立てを完了し,本年1月に機体の進水試験を実施した。
 今後,水槽内及び渠中で搭載機器類の機能・性能確認を実施する予定である。

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深海巡航探査機「うらしま」

深海巡航探査機「うらしま」は1998年からJAMSTECが開発を続けている自律型の深海探査ロボットです。機体に内蔵したコンピュータにあらかじめ設定されたシナリオに従って、自分の位置を計算しながら航走することができます。2005年2月28日には、世界記録となる連続航走距離317kmを達成しました。
「うらしま」は地球温暖化のメカニズムを解明するために必要な塩分濃度、水温等の海洋データを広範囲にわたって自動で採取することができます。また、海底に接近して探査を行い、非常に高い解像度の海底地形や海底下構造のデータを取得できます。プログラムされた調査測線に沿って運動を制御するので、同一地点の調査や狭い範囲を往復させる調査も可能です。

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JAMSTECに引き渡された後、独自の海中測位技術と運動制御ソフト確立のために様々な実験を行ってきたという。その結果、リングレーザージャイロと海底音響灯台などを組み合わせることによって高精度での水中自律3次元機動が可能となった。またリチウムイオン電池を閉鎖式燃料電池にすることによって自己目標300kmを上回る317kmの長距離自律航行も達成した。

燃料電池搭載深海巡航探査機“うらしま”

この功績により2006年にはロボット大賞も受賞している。

「今年のロボット」大賞2006 公共・フロンティアロボット部門
深海巡航探査機 「うらしま」

その後、リチウムイオン電池に戻されているが、この燃料電池による長距離航行は地球温暖化メカニズム解明のための北極海探査を目指してのものだった。氷海下では完全自律状態での長距離航行調査が要求される。これが実現すれば、各国の資源争奪戦となりつつある北極海においても有利な地位を得ることが出来るだろう。

実際、製造元の三菱重工では「うらしま」の実績や運用を元に次世代AUVの研究開発を進めている。

海洋資源の調査に貢献する自律型深海巡航探査機(AUV)への取組み

ここ数年来,海洋資源開発の重要性が再認識されその機運の高まりと共に,開発に先立つ資源調査ニーズに貢献する自律型深海巡航探査機(AUV)の整備・展開が期待されている.本稿では当社が平成12 年に納入した試験機AUV“うらしま”の建造と保守整備実績並びにその後の客先での運用成果を通しての探査技術を紹介すると共に自律型深海巡航探査機(AUV)への当社の開発の取組みについて述べる.

資源探査だけでなく地震対策にも貢献できるとしている。


もう一つ、日本で有名なAUVといえば東京大学生産技術研究所のr2D4だ。

r2D4.jpg


製造元は三井造船である。

「r2D4」│事業・製品情報│三井造船株式会社 MES

「r2D4」は、東京大学生産技術研究所と共同開発した自律無人潜水機(AUV: Autonomous Underwater Vehicle)「アールワン・ロボット」の成果を基に、小型化・大深度化・高機能化を図った海中・海底観測調査用AUVです。
これまでに、複雑な地形の海域でも安全・確実に潜航調査を行うなど、その潜航能力を実証しております。



同機は海保にとってはつらい思い出のある明神礁の調査も行った。

自律型海中ロボット「r2D4」、明神礁のカルデラに潜る

 明神礁(東京の南約400km、北緯31度55分、東経140度02分)は、伊豆小笠原海域に位置し、1870年~1970年までの100年間に11回の噴火を起こしている海底火山です。1952年の爆発では、現場を調査中の海上保安庁水路部所属第5海洋丸が遭難し、研究者を含む31名が殉職、その後、長らく立ち入り禁止となっていました。
明神礁や小笠原海域一帯の海洋底には背弧海盆が拡がり、銅やコバルトなどを含んだ熱水性鉱床が存在することが予測されており、我が国の資源確保の観点からも注目されています。しかし、特に明神礁の周辺は、3ノットを超える流速の黒潮に洗われており、噴火の危険性があるために、既存のシステムでは観測することが難しく、これまで乏しい情報しか取得できていませんでした。

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センターを中心とする研究グループは、熱水性鉱床を発見するために、流れが強く、海底面形状が複雑な明神礁に向かい、最新鋭の中型の自律型海中ロボットである「r2D4」(を8月19日に明神礁のカルデラ内に潜航させ、搭載している観測機器(新しく開発した小型現場型マンガン分析装置、サイドスキャンソナー、TVカメラなど)で観測することに成功しました。

このときはもう一つのAUVユーザーであるJAMSTECの「なつしま」を母船として観測が行われている。

そして2010年には海上保安庁海洋情報部と共同で海底自動観測にも成功した。このときはr2D4だけでなくより小型のTuna-Sandと組み合わせての実施で、2種類の自律水中ロボット運用による可能性を示した。

海中ロボットによる海底全自動観測に成功 海上保安庁海洋情報部

2010.07.07 東大と海上保安庁、2種類の海中ロボットを用いて高精度な海底の自動観測に成功

 東京大学 生産技術研究所と海上保安庁は、東大が開発した2種類の自律型海中ロボットを用いて、従来にない高精度で海底を自動観測したことを発表した。気になる海底地点の詳細な画像撮影に成功した。熱水鉱床やメタンハイドレートといった海底資源の調査・開発の効率化が期待される。有人潜水艇を利用するよりも短時間で広範囲を観測できるうえ、無人のため安全かつコストも安い。海底調査に積極的に活用していく。

 2種類の自律型海中ロボットを利用して観測する。まず、測量船で10kmスケールで大まかに海底の形状や地質学的な性質を調べる。次に、細かい観測が必要な場所を、大型の海中ロボット「r2D4(アールツーディーフォー)」が1kmスケールで観測。さらに重要なスポットを、小型海中ロボット「Tuna-Sand(ツナサンド)」が10mスケールで細かく撮影して観測する。

このときTuna-Sandは海保測量船「明洋」から展開している。

実はこれより以前から海保はr2D4を借りる形でAUVの運用を行っており、今回のAUV導入にはその経験が生かされたと思われる。だからこそ、海保のAUVはr2D4系列のものが導入されるのではないか。少なくとも国産AUVではないか・・・と考えていたのだが、違ったようだ。

関連エントリ:海上保安庁に「潜水艇」が復活か・・・海洋情報部のAUV計画


この有名な2機(2隻)のほかに川崎重工やKDDIで開発された自律型AUVも存在する。

自律型無人潜水機(AUV)マリンバードの開発

自らの判断に基づいて水中を行動する自律型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)は将来の海洋調査・観測システムとして有望視されている。本報では、(株)川崎造船で開発したAUV(機名「マリンバード」)の概要、本機の中核技術である自律制御システムの構成、および試験結果の概要を紹介する。

n154tr031.jpg

AQUA EXPLORER 2000

次世代水中ロボットAQUA EXPLORER 2000(略称:AE2000)は、母船とロボットを結ぶ制御ケーブルを必要としない無索式の自立走行式水中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)です。

「AE2000」は一世代前の「AE-2」※の実績をベースに開発され、外形は同じで航続時間が2倍となり、深度2,000mまで潜航可能です。海中を自由に移動できる特性を活かし、従来の調査装置やロボットと比べて、光海底ケーブルの建設・保守に、優れた費用対効果を実現します。
※(KDDIにて開発された水深500mまで潜航可能なAUV)

AE2000.gif

※AE2000を実際に製造したのは三井造船である

「AQUA EXPLORER 2」、「AQUA EXPLORER 2000」│事業・製品情報│三井造船株式会社 MES

以下の記事によればAE2000が日本唯一の商用AUVだったというが、深サルがエクスプローラーを導入したことによりその牙城は崩れた。

わが国のAUV開発とこれから

この記事にあるように、これだけの研究実験用AUVが日本には存在している。しかし、今まで商用AUVが少なく、海外にも輸出していなかったことが、福島第一に投入された(されなかった)日米ロボットの違いと同じ構造に見えなくもない。

まぁ、単に国産最強主義に染まっていない海保が、安くて実績があって運用委託が出来るエクスプローラーを選んだだけという話かもしれないが。

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tag : 海上保安庁 海洋情報部 測量船 調査船 AUV ROV 海洋資源 海底資源 JAMSTEC

2012-02-24 : 海上保安庁 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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非公開コメント

No title
>海保のAUVはr2D4系列のものが導入されるのではないか。

 あいにく、その後インド洋で沈めてしまったんですよ。U先生の年齢から言って次のプロジェクトを立ち上げるのは困難ですし、そのお弟子さんのK先生は水産系に手を出しているので運用思想が異なっています。
 http://www.ocean.e.kaiyodai.ac.jp/jp/research/research.html

 もっというと「MES製品」なんですが。。。

@JAMSTEC&MHI

 JOGMECとの海底資源探査が基盤的技術の研究開発・推進になっているのですから、「クリアリングハウス」のように積極関与するのでなければやめといたほうが無難です。 

@船齢から言えば「昭洋」の運用実績に基づき現「拓洋」を新型船で更新したいところ

 いや。正直、大型船の代替ってどうでも良いんです。観測機材さえ最新であれば。
2012-02-25 19:44 : HMS URL : 編集
Re: No title
>r2D4
恥ずかしながらr2D4ロストの件は初めて知りました・・・
惜しいことをしたものです。まぁアンビリカルで繋がってるROVでも回収できないこともあるのですから
自律型になれば・・・・とういうことなんですかね。

r2D4とツナサンドは海保との研究成果があるだけに残念です。

>JAMSTEC&MHI
実績ある完成品を購入するのが一番海保にはよさげですね。

>大型船
たしかに各国を見ても調査船・測量船の寿命は長いですし、「餡子」を取り換えて最新船並みの性能になっているのもあります。「拓洋」の延命工事もそれを目指しているのでしょう。

ただ、どうしても船体が古いと居住性や船としての基本性能が・・・
もう少し余裕のある船がほしいのではないかな、と
2012-03-03 11:55 : 蒼海管理人 URL : 編集
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