工作船沈没から10年、命令者も消えた

※以下のエントリは2011年12月24日用に準備していた内容に、一部加筆修正したもの。




海上保安庁のRFS20mm機関砲が火を噴き、工作船が海中に没してから10年になる。

不審船に船体射撃、沈没「北朝鮮工作船の可能性」

鹿児島県・奄美大島沖の東シナ海の日本の排他的経済水域内で、国籍不明の不審船を発見して追跡していた海上保安庁は、不審船が停船命令を無視して逃走したため、威嚇射撃後に船体へ向けて射撃、不審船は沈没した。不審船からは地対空ミサイルなどが回収され、後に北朝鮮の工作船と認定された。


その後、紆余曲折を経て工作船は引き上げられ、現在は横浜海上防災基地に併設された施設で展示公開されている。調査によって様々なことが分かった。

漁船に偽装しつつも高速船のような著しく鋭い船体。しかしその実態はカタログスペック(?とはかなり異なるものだったようだ。
北朝鮮工作船事件10年:高張力鋼で作られた「専用船」 競艇用ボートの原理で高速化

 海上保安大学校国際海洋政策研究所が、工作船の模型を製作した水槽実験では、波高2メートルでも10ノット(約19キロ)以下でしか走れない構造であることがわかった。工作船発見当時の波高5メートルでは航行困難な状態で、高速で逃走しなかったのはエンジントラブルよりも構造的な問題によるものが大きかったと確認された。

当時はエンジントラブルや被弾による速力低下といわれていたが、そもそもそんな速度は出なかったのである。

一方で海上保安庁は巡視船艇の高速化をその後も推進させていった。

北朝鮮工作船事件10年:事件教訓に高速型巡視船配備 金総書記死去受け情報収集をさらに強化

同庁では工作船が出現することを想定して、2007年度末までに正確な射撃が可能な武器や防弾などを強化した2000トン級と1000トン級の高速型巡視船を各3隻、高速特殊警備船6隻を配備している。また、これ以外にも各管区に高速型の巡視船や巡視艇を全国に配備することで、不審船や違反船舶の追尾、捕捉が容易になったほか、救難現場に素早く到着することができるようになった。「速い船であればさまざまなやり方で追尾できる。しかし、遅い船では追尾しても他国領海に入られてしまい捕まえることはできなくなる」と高速型巡視船の有用性を説く。

こうした巡視船の高速化は工作船対策だけでなく通常の違法漁船取締や救難活動にも貢献した。最近の七管における中国サンゴ密漁船拿捕も工作船対策の巡視船(高速特殊警備船「ほうおう」)と高速化された中型巡視船(PM型巡視船「ふくえ」)が活躍している。また、最近では潜水士も1000トン型の巡視船ではなく現場海域への展開能力に優れた中小型巡視船に配置されていることもある。

しかし、いいことばかりではない。

半面、原油高騰に伴う燃料費が負担となったこともあり就役当初は軽油を使用していた船をA重油仕様へ変更したケースも少なくない。「燃料費を気にして人を救えるか」といった言葉は過去のものとなりつつある。高速型の巡視船は船体価格が高くなりがちなことも、老朽した巡視船の多い同庁にとっては悩みの種だ。

海上保安庁では高速巡視船向けに元々ドイツMTU社の高速ディーゼルを採用してきたが、その後A重油の使用も可能な新潟原動機(旧新潟鐵工所、現IHI系)の高速ディーゼルが採用された。

海上保安庁殿向け高速巡視船用ディーゼル主機関 36台を落札

 海上保安庁殿は不審船事件以来、巡視船の高速化を推し進めており、これに搭載される主機関も高出力・軽量・コンパクト・高信頼性が求められてきました。

 同庁に採用される高速機関はこれまでドイツMTU社の独壇場でありましたが、新潟原動機の技術の粋を集めた 16V20FXは平成13年度より採用され、すでに 21台納入しており合計 57台となります。



海上保安庁 19年度予算高速巡視船用ディーゼル主機関29台落札

 2007年7月31日 海上保安庁高速巡視船用ディーゼル主機関の一般競争入札において、
新潟原動機製16V20FX(3690kW)-29台 落札した。

 18年度予算の36台に引き続き受注となり、同機関は平成13年度より採用され、合計台数は90台となった。

15年度建造 海上保安庁巡視船「はくさん」
 16V20FX-4基搭載



次期NOx規制に対応した巡視船用高速ディーゼルエンジンを海上保安庁から22台一括受注

燃料には、軽油の他にA重油の使用ができ、経済性に富んでいます。また、シンプルな構造により保守、点検の容易化を図っており、シリンダヘッドなどの部品を船内で整備することが可能です。

「つるぎ」型や「あそ」型の一番船である「あそ」などまでがMTU製機関を採用していたと思われるが、それ以降の高速巡視船や「はてるま」型巡視船は全てこの新潟発動機の16V20FXのようだ。




ちなみに海保のみならず世界の沿岸警備隊においても高性能なディーゼル機関といえばMTUだった(米国、韓国、インドでも採用されている)が、今後は新潟原動機のディーゼルが食い込んでいく可能性もある。

同社の中速ディーゼルが初めて台湾海巡署の巡視船に採用されたという。

台湾 巡視船向け舶用中速エンジン「12MG28HLX」を出荷

 新潟原動機株式会社(以下NPS)は,R.O.C Taiwan Coast Guard (台湾,海岸巡防局)殿向けに舶用中速ディーゼルエンジン「12MG28HLX」(出力:4,045kW,750rpm) 2台を出荷しました。
 本エンジンは,漁船取締船として運航される1,000t巡視船に2台搭載されます。NPSでは,R.O.C Taiwan Coast Guardから2010年9月に2隻4台を受注し,本年8月に1隻目搭載分の2台を出荷しています。

 巡視船は,一般的には高速艇が多く,高速エンジンの搭載が多いですが,今回受注した1,000t巡視船においては,故障なく長距離・長期間・安全に運転できる主機関が要求され,種々の舶用主機関で実績あるNPSの中速エンジンが評価され受注に至りました。R.O.C. Taiwan Coast Guardの巡視船に,当社舶用ディーゼルエンジンが初めて搭載されます。




この16V20FXの採用は、同型船の途中で行われているため、給排気塔の違いから変更が推測できる。だが、記事の書き方によると既存の巡視船でも換装が行われているようだ。

2008年の原油高による巡視船艇の運用危機がよっぽど響いたのだろう。このときは年度末ではなく年末(12月)に燃料費がそこを尽き、巡視船艇の運用が出来なくなる危険性があった。

海保燃料費12月にも枯渇 原油価格高騰で、節約を奨励


結局のところ、こうした燃料高騰や維持費の問題、また尖閣諸島警備等必要とされる性能の変化によって高速性重視の建造方針は改められることとなった。そもそも、新造船艇オール30ノットオーバーというのが、それこそオーバースペックに過ぎたのかもしれない・・・。

工作船事件を認めた金正日もこの世から去った。

さらに、近年において海上保安庁を悩ませている北朝鮮関連事案といえば「工作船」ではなく「漂流船」である。それも「脱北」以外の漂流者も出てきた。新しい指導者の下で、新しい事案が起きる可能性もある。だが、今後は予算的な措置に依存した新規導入のハードウェアでの対処は期待できないかもしれない。

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tag : 海上保安庁 巡視船 領海警備 北朝鮮

2012-01-17 : 北朝鮮問題 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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